工法紹介

支柱強化型 斜面崩壊対策待受け工
サスティナブルフェンス

概要

サスティナブルフェンスは,斜面崩壊により発生した土石等(以下「崩壊土石等」)を捕捉し,土砂災害から人命と社会インフラを守るための支柱強化型の斜面崩壊対策待受け工です。

従来の柔構造物工法では、同目的でネット強化型の防護柵であるインパクトバリアが使用されてきました。サスティナブルフェンスは支柱強化型として開発され、現地条件によって使い分けが可能となっています。

崩壊土石等に対する防護柵工事は、道路際や家屋の裏斜面など、狭隘で厳しい現場条件での施工が多いことから、防護柵の占有面積をネット強化型の防護柵よりもさらに小さくできること、また崩壊土石等の衝突・堆積時に防護柵全体の変形量が小さいことが本工法の利点です。

衝撃を受ける柔構造の防護工については、土木学会の「防災・安全対策技術者のための衝撃作用を受ける土木構造物の性能設計」において「維持補修を含む総合的な視点、もしくは計画を鑑みることが必要である」とされています。
そこで本工法では、長期供用を前提として、崩壊土石等の除去や補修が必要となった場合に、できる限り安全で容易に工事ができるよう工夫しました。

開発にあたっては、本工法が保全対象物(家屋・道路・鉄道等)に近接して設置されることを想定し、高い安全性を確保すべく、崩壊土石等に対する実物大実験を実施して、性能の確認を行いました。

また、柔構造物工法の新しい工法として、既存の工法と合わせて系統化するため、崩壊土石等を捕捉対象とした支柱強化型については「サスティナブル」(支柱交換を容易にして持続可能性を向上させた)を、阻止面にTECCOネット等の金網を使用した工法は「フェンス」の名称を付けることとしました。

概要図

崩壊土石等の実物実験

崩壊土石等に対するサスティナブルフェンスの性能の把握と、設計法の妥当性を検証するにあたり実物大実験を実施しました。

概要図

実験柵には合計3回、崩壊土石等に見立てた土石を衝突させました。土石が完全に柵を越流しても形状を保持しており、サスティナブルフェンスの安全性を確認しました。
この時の最大衝撃力は,F=163kN/m2でありましたが、ワイヤロープの破断や杭の塑性変形等、補修が必要な損傷・変形が起こらないことを確認しました。

落石の実物実験

サスティナブルフェンスの落石に対する性能を確認するため、重錘落下実験を実施しました。
その結果、中央スパン・端末スパンの両方にそれぞれ300kJの重錘を落下させても、捕捉が可能であることを確認しました。

特徴

全容

サスティナブルフェンスの特徴は、以下のとおりです。

  1. 実物大実験を実施し、確実な土砂捕捉性能と部材変形特性を確認し、その結果を設計手法に反映した。
  2. 支柱を上杭と下杭に分割した二重管構造の着脱可能な構造(上杭を下杭にソケット状に差し込む構造)とすることで、上杭が変形して取り替えが必要な場合、下杭を残したまま早期に支柱の再設置を可能とした。
  3. 杭背面に設置したロープは、端部支柱で折り返し、第2端末支柱に接続する構造とすることで、補修時のロープ弛緩,Uブレーキの交換等メンテナンス性を向上させた。
  4. 中空構造の杭は軽量で、運搬・建て込みに大きな機材を用いることなく施工可能であり,保全対象物への影響を軽減できる。
  5. 落石の実物実験により,300kJまでの運動エネルギーを吸収できる。

構造

サスティナブルフェンスは、支柱が二重管構造、阻止面には高強度ネット(TECCOネット)、阻止面を保持するワイヤロープ、ワイヤロープに取り付ける緩衝装置(U-ブレーキ)等から構成されます。

  1. 支柱の二重管構造
    支柱を上杭と下杭に分割し、上杭を下杭にソケット状に差し込む着脱可能な構造としている。これにより、上杭が変形した場合でも下杭を残したまま交換が可能となり、早期の復旧を実現。
  2. 阻止面
    阻止面には高強度のTECCOネットを使用し、崩壊土石等や落石を効率的に捕捉。
  3. ワイヤロープと緩衝装置
    阻止面を保持するワイヤロープには緩衝装置(U-ブレーキ)を接続し、衝撃時のエネルギーを効果的に吸収。杭背面に設置したロープは端部支柱で折り返し、第2端末支柱に接続する構造とすることで、メンテナンス性を向上。

設計

設計外力および崩壊土石等の捕捉容量については下記の3項目に基づいて計算を行い、すべてについて構造を満たした場合に構造が成立することとしています。
サスティナブルフェンス自体の構造計算は、実物実験で得た崩壊土石等の衝撃後の変形を考慮した許容応力度法で行います。

  1. 崩壊土石等の量:「崩壊土砂による衝撃力と崩壊土砂量を考慮した待受け擁壁も設計計算事例」(全国地すべりがけ崩れ対策協議会編)に基づく。
  2. 崩壊土石等の衝撃力:「国土交通省告示第332号(平成13年3月28日)」に示される算出式による移動の力(Fsm)を用いる。
  3. 崩壊土石等の堆積土圧:「国土交通省告示第332号(平成13年3月28日)」に示される算出式による堆積土圧(Fsa)、または「新・斜面崩壊防止工事の設計と実例」によるクーロン公式(試行くさび法)を用いる。

設計方法の詳細は、「サスティナブルフェンス 設計・施工マニュアル」(2025年10月)に記述しています。

維持管理性

支柱の二重管構造により、上杭の交換をすることで早期の復旧が可能であり、交換部材を軽減できます。
また、杭背面に設置したロープを端部支柱で折り返し、第2端末支柱に接続する構造としているため、補修時のロープ弛緩やUブレーキの交換等が容易に行えます。

施工性

中空構造の杭は軽量であるため、運搬や建て込みに大きな機材を用いることなく施工が可能です。
これにより、狭隘地や保全対象物に近接した場所でも施工が可能となり、保全対象物への影響を軽減できます。

適用範囲

最大柵高を5.5m、支柱間隔2.5m~8.0mの仕様で、設計計算にて構造が成立する範囲を適用範囲とします。
適用の主な対象箇所は下記のとおりです。

  1. 急傾斜地崩壊防止対策区域(土砂災害特別警報区域)の人家および公共施設等
  2. 斜面崩壊による土砂災害の危険が予測される道路および鉄道
  3. 斜面崩壊による人家等への土砂災害の危険が予測される区域全般
  4. 斜面崩壊等が発生し,再度災害発生の恐れが高い区域