工法紹介

ネット強化型 土石流・流木捕捉工
インパクトバリア Dタイプ

概要

インパクトバリア Dタイプは、主に小規模な渓流(無流水渓流)において、土石流・流木や移動土砂による人的被害を防ぐための本設のネット強化型 土石流・流木捕捉工です。

本工法の前身となるのは、土石流・流木捕捉緊急対策工(通称:強靭ワイヤーネット)です。平成26年に発生した広島市内での土砂災害の応急対策として多用された後、主に仮設構造物として、全国的に使用されるようになりました。その理由は、狭い進入路でも施工が可能であり、防護柵の組み立てが人力施工で対応でき、大型重機を必要としないことです。

一方、小規模な渓流(無流水渓流)を対象とした「効果的・効率的な対策」が必要とされる中で、地形や人家密集などにより従来の砂防堰堤や支柱強化型土石流・流木捕捉工が施工できない箇所での本設(長期供用)の構造物として開発したのが、インパクトバリア Dタイプです。

本工法の開発にあたっては、設置箇所の直下流に人家等が密集しているケースを想定し、高い安全性と土石流・流木捕捉の確実性を確保するため、耐衝撃性能・捕捉性能の確認を目的に実物大の土砂実験ならびに水理模型実験を実施しました。

また、構造については柔構造斜面崩壊対策待受け工のインパクトバリアを基にしていることから、この名称を引き継ぎ、土石流(Debris Flow)の頭文字をとって、Dタイプと名付けました。
なお、既存工法との名称の統一化のため、阻止面にリングネットを使用した工法は末尾に「バリア」の名称を付けています。

概要図

実物実験

土石流の流下に対する性能の把握と設計法の妥当性を検証するにあたり,土石流発生・流下区間を想定した斜面において、実際に起こりうる事象(堆積した土石の上部に土石流が衝突する状況)を想定した実物大実験を実施しました。
実験では、土石が防護柵に対して満砂状態まで土石を流下させた結果、衝撃力F=178kN/m2の流下土石を安定して捕捉できることを確認しました。

模型実験

土石の阻止面であるリングネットの土石と流木に対する捕捉性能を確認するため、1/30スケールの直線水路を用いて、不透過型砂防堰堤とリングネットにおいて、95%礫径30cm(リング直径相当)以上の骨材を含む土砂と平均φ24cm相当の流木模型を混入させて比較実験を行いました。
その結果、リングネットは不透過型砂防堰堤と同等以上の捕捉性能があることが分かりました。

特徴

全容

インパクトバリア Dタイプの特徴は,以下のとおりです。

  1. 阻止面にリングネットを、ワイヤロープに衝撃緩衝装置(ブレーキリング)を用いることで、土石・流木の衝突時に衝撃を緩和し、ワイヤロープ・支柱・アンカーへの負担を軽減する。
  2. 流木が阻止面に直角方向に衝突しても変形により、局部貫通に対する高い抵抗性を有する。
  3. 実物大実験を実施し,流下土石に対する防護柵の耐衝撃性能を確認している。
  4. 水理模型実験を実施し,D95=30cm以上における土石流の捕捉性能を確認している。
  5. リングネットの素線巻き数、支柱間隔、支柱の長さを変更できることにより、設計の自由度が高い。
  6. 最小進入路幅(W=1.5m)の箇所でも、モノレール・不整地運搬車等による資材運搬により施工が可能である。
  7. 短期間での施工が可能(最短1ヵ月)で、非出水期の期間内に設置が可能である。
  8. 除石・除木が必要になった場合、阻止面の開閉が容易にできる。さらに、リングネットの取替が必要になった場合においても、リング単体またはパネル単位の交換ができるため、阻止面の修復性が高く、コスト軽減も図れる。

構造

「無流水渓流対策に係る技術的留意事項(試行案)」(令和4年3月 国土交通省水管理・国土保全局砂防部)の参考事項に記されている「アンカーネット構造物は(中略)当面の間、参考事項の扱いとする」「アンカーネット式は(中略)無流水渓流対策における恒久対策として今後活用が期待される」ことを受けて、土石流・流木流加防止緊急対策工およびインパクトバリアの構造を基に改良を加えました。

  1. ワイヤロープ(リテイニングロープ・サポートロープ)とアンカーの接続箇所を渓流の計画堆積範囲の外側に設けることで土石流発生時・堆積時の洗堀や摩耗から防護することを標準とした。
  2. 計画堆積範囲に支柱を設けることを前提に支柱下部のヒンジ部および支柱基礎反力体との接続部を土石の衝突・堆積から守るため、土石流防止カバーを設けた。
  3. 支柱頭部とサポートロープの接続部を改良し、サポートロープが支柱から外れない構造とした。
  4. 土石堆積時の除去を容易にするため、リングネットはパネルとしてつなぎ合わせ、シャックルで接続する構造とした。これはリングネットを使用した他の柔構造物工法にも共通する。
  5. 摩耗や変形に強い特殊なゴム製の防護材を、ワイヤロープや支柱下部等に取り付けるオプションを設けた。
  6. 渓床の浸食防止対策として、必要に応じて「かご工等」を設けることとした。

設計

設計外力については「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)」「土石流・流木対策設計技術指針」(令和7年3月一部改訂版 国土技術政策総合研究所編)に基づいて、インパクトバリア Dタイプに作用する流体力・堆積土圧等の外力および流出土石量を算出します。

設計モデルは、以下の3ケースから作用外力が最大となるケースを選定します。

  1. 土石流時(土石流流体力+堆砂圧)
  2. 満砂時(堆砂圧)
  3. 越流時(越流土圧+堆砂圧、必要なケースに用いる)

構造計算は、土石流流体力・堆砂圧作用時の柵の変形を考慮した力のつり合いにより各部材に作用する荷重を算出し、部材選定を行います。フェイルセーフ(想定以上の土石等の衝突に対しても全破壊に至らず、捕捉効果を見いだせること)のため、リテイニングロープが破断してもサポートロープにより、設計外力に抵抗できる仕組みとしています。
設計手法の詳細については「インパクトバリア Dタイプ 設計・施工マニュアル」(2025年10月)に詳細に記述しています。

適用範囲

主として無流水渓流に適用されることを考慮して、下記条件の渓流を主な対象とします。
(1)流路が不明瞭で常時流水がなく,平常時の土砂移動が想定されない渓流。
(2)常時流水がある比較的小規模な渓流。
(3)基準点上流の渓床勾配が10°程度以上で流域全体が土石流発生・流下区間である渓流。
構造的には最大柵高が6.0mで捕捉対象の土石の量が確保できる場所を対象とします。